第19回健康講座が2011年3月5日(土)午後2時から福岡山王ホールで開催され、力丸徹・呼吸器内科部長が「COPDについて ~知っていますかあなたの肺年齢~」と題して講演しました。
講演要旨は次の通りです。
第19回 健康講座
「COPDについて ~知っていますかあなたの肺年齢~」
講師
副院長、呼吸器内科部長兼務
力丸 徹
■「COPD」って何?
「COPD」、ちょっと聞きなれない言葉かもしれません。最近はテレビ、新聞で取り上げられることもあるので、どこかで聞いたという方もいらっしゃることでしょう。
COPDは「慢性閉塞性肺疾患」という病気で、簡単にいうとタバコを吸って肺が壊れてきて、呼吸が苦しくなるような病気です。
自分がCOPDなのか、そうではないのかは、簡単な質問票で、ある程度のことがわかります。
まず、年齢が高くなるにつれてCOPDの可能性が高くなります。50歳以下だったら点数は0ポイント。50~60歳未満が4ポイント、60~69歳が8ポイント、70歳以上が10ポイントというように、自分の年齢に合わせてポイントを換算します。
次に喫煙歴の有無に関する質問とポイント換算です。
※Pack・yearの計算
Pack・year=(1日のタバコ本数÷20本)×喫煙年数
0~14 Pack・year ... 0ポイント
15~24 Pack・year ... 2ポイント
25~49 Pack・year ... 3ポイント
50 Pack・year以上 ... 7ポイント
"タバコを吸ったことがない"から"1日1箱のタバコを14年以下の喫煙"なら0ポイント、"1日2箱を10年間喫煙=20 Pack・year"なら2ポイント、というふうに計算、換算します。
体格的には痩せている方がCOPDを起こしやすいようです。BMI(体重(kg)/身長(m)2)は痩せていると5ポイント、標準体重だったら1ポイント、ちょっと太りすぎの人は0ポイントと換算します。
また、"咳が出る"人は3ポイント、"痰が出る"人も3ポイント、"起きた後に痰が出る"というのは、逆に出ない人が3ポイント、というように、それぞれの質問項目に答えてポイント換算します。
すべての項目のポイントを足して17ポイント以上になるとCOPDの可能性が高くなります。
■肺の構造について
肺は空気中から酸素を体内に取り入れて、二酸化炭素、炭酸ガスを体外に出す臓器です。生命にとって絶対に必要な、重要な臓器の一つです。
肩肺に肺胞(空気を取り入れる袋みたいなもの)が4億個あります。表面積は60~80㎡ぐらい。両肺ではバドミントンコート1面くらいの広さになります。
肺が空気を取り入れる際、空気中にはいろんなばい菌、ウィルスが含まれています。それらを防御する免疫機能が人間の体には備わっています。物理的なもの、例えば咳、痰、くしゃみで入ってきたものを直接排出しています。
また、ばい菌をやっつけるような細胞のマクロファージ、白血球、リンパ球。こういう免疫を司る細胞が肺の中にはあって、入ってきたばい菌を食べて感染を予防する、というような働きもあります。
空気が通る穴、気管は右の主気管支、左の主気管支に分かれていて、さらに右の肺は三つ、左の肺は二つに分かれています。
空気が通るところ、血管が通るところ、神経が通るところなど、肺の中にはいろんなものがあって、かなり複雑な構造をしています。
■「肺年齢」とは?
本日の主題は「肺年齢を知っていますか?」となっています。肺年齢は最近言われ出した概念で、基本的には自分の肺が1秒間に出せる空気の量を他人と比較してどの程度なのか、ということになります。
男女とも、加齢とともに1秒間に出せる量(FEV1)は低下します。これを「1秒量」という言葉で表しますが、難しいため、日本呼吸器学会が年齢に合わせて「肺年齢」という言葉を提唱し始めました。
具体的に説明しますと、タバコを吸っていない元気な人でも加齢とともに肺機能が低下します。一方、喫煙者はタバコを吸うことによって肺機能の低下が進行します。下の図で説明しますと、被験者の実年齢が45歳で1秒量が3.0Lの場合、タバコを吸わない人なら63歳の年齢に値します。つまり、実年齢は45歳だけど肺年齢は63歳ですよ、ということになります。
一般的な1秒量の低下と比較して、その個人個人がどのようなカーブで低下しているのか、ということが肺年齢の基本です。
■肺年齢を測定するスパイロ検査
肺年齢を測定するためには「スパイロ」という検査を実施します。鼻から空気が漏れないように鼻栓をして、測定機に接続された筒を口にくわえ、思いっきり吸ってプーッと吐きます。1秒間に吐ける量を測定しますので、一気に吐く必要があります。肺活量とは異なり、「1秒間に吐ける量が少ない」というのがCOPDの特徴なので、一気に吐いてもらわないといけません。
1秒量の測定結果が正常値と比べて70%以下の場合、COPDという病気になります。
■COPDの症状
COPDはChronic Obstructive Pulmonary Diseaseの略称で、日本語で言うと「慢性閉塞性肺疾患」という病気です。呼吸がしにくくなる病気です。
具体的な症状は、基本的な呼吸器の症状である「風邪でもないのに咳、痰が出る」「息切れがする」のほか、「階段を上ると息切れがする」「普通の人と比べて階段が上りづらい」「一緒に歩いていても遅れる」といった運動時の障害があります。「歳のせいだろう」と思っていても、実はこういう病気だった、という可能性もあります。
40歳以上でタバコを吸っている、また以前吸っていた、という人はCOPDの可能性がある、と言えます。
アメリカの研究データによると、心筋梗塞を含めた心臓病、脳卒中の死亡率は昔と比べると減少していますが、COPDだけは増加していました。
日本国内のCOPDによる死亡者数を見ると、年代と共に増えていることがわかります。また、最近は少し喫煙率が減っていることから、頭打ちの傾向にあります。
健康な人の気管支は空気が通りやすくなっていますが、COPD患者の気管支は、中に粘液や痰みたいなものが溜まっていたり、気管支壁が厚くなってきたりして、気管支が狭くなっています。
肺の末梢にある肺胞は、空気から酸素を取り入れて炭酸ガスを出すという大事なところですが、COPDでは気管支が狭くなり、また、肺胞が膨れて肺が壊れ、機能しなくなります。これが解剖学的特徴です。
重症のCOPD患者の胸部をレントゲンで見ると、肺が膨らみすぎる(過膨張)ことによって、本来ドーム状になっている横隔膜が押し下げられた(平低化)形になります。
COPDは、どちらかといえば「息を吸うことはできるけど、吐くことができない」症状になります。空気の通る道が狭くなるので、狭いところ、例えばストローで吸う時は、吸うことは吸えるが、ストローを持ってフゥーと吐くとなかなか吐けない、というのと同じ格好になります。そうなると、肺に次第に空気が溜まって過膨張となり、結果として横隔膜が押し下げられます。
■タバコを吸った分だけ壊れる肺
肺の組織は、わかりやすく例えるとスポンジ状になっていて、スポンジの小さな穴が肺胞です。この小さな穴みたいなところで酸素を取り入れ、炭酸ガスを出しています。
古くなったスポンジがボロボロと崩れるように、タバコを吸うと肺の組織が崩れ、最後は穴が開いてしまいます。穴があいた部分は機能しませんので息苦しくなります。
タバコを1本吸えば、その分だけ肺が壊れるのです。そういう壊れた箇所が集まってくると穴が大きくなり、スカスカの肺になってしまいます。
■日本国内のCOPD患者数
厚生労働省の統計によると、COPDの治療を受けている人は21~22万人ぐらいいらっしゃるようです。ただし、これは氷山の一角で、日本全国に約500万人以上の患者さんがいるだろう、と言われています。「自分は歳のせいで息苦しいのだろう」と思ってしまうために、かなりの人が隠れCOPDの状態にあります。そういう人たちをきちんと治療しないといけない、と思っています。
■COPDの臨床経過
COPDはどのように進行するのでしょうか。
最初は、軽い咳とか痰が出るぐらいです。「ちょっと風邪をひいたのかな」というような感じです。
中等度になると運動した時に息苦しくなります。階段を上った時とか、少し走った時とか、動いた時の呼吸困難があります。また、慢性の咳、痰が出ます。そういう時に「歳のせいかな」と思っていても、実はこういう病気から息苦しさがきている、というようなことが比較的多いようです。
さらに進行すると生活に支障をきたします。洋服を着る、お風呂に入るといった、ちょっとした動きでも息苦しさが出てくるようになります。
もっとひどくなると在宅酸素を使わないといけないようになります。このような状態になって病院に来る方が多いのですが、早期発見・早期治療が大事です。早めに受診をするなり、自分はこういう病気なのではないかと前もって検査をするなり、少し気をつけることが大事です。
また、COPDは肺の病気ととらえられがちですが、肺以外にも体全身の病気に影響をおよぼします。栄養障害で痩せたり、筋肉が衰えたりすることがあります。心筋梗塞や脳血管障害、骨粗鬆症、うつ、貧血、逆流性食道炎、十二指腸潰瘍など、COPDはいろんな併存症、合併症を起こすということが最近わかってきました。
■COPDの急性増悪
COPDの障害は悪循環になります。COPDの患者さんが風邪をひいて咳、痰が出ることによって急性増悪(急激に症状が悪化すること)で入院治療します。治療することによって回復はしますが、元のところまでは戻らない。完全には治らないのです。だからCOPDになってしまった人は急性増悪を起こさないようにすることが、とても重要になってきます。
それを検討した報告として、急性増悪を起こした回数と死亡率を比較したものがあります。
急性増悪が全くない人は青いカーブ、急性増悪が1~2回起こった人は緑のカーブ、急性増悪を3~4回起こした人は紫のカーブになっています。急性増悪を起こしていない人と3~4回起こした人とでは、死亡率が4.3倍違うということになります。
そのため、残念ながらCOPDになった場合には、急性増悪を起こさないためにも、ちょっとした風邪ぐらいだから大丈夫だろう、という考えは禁物です。早めに病院に行く、インフルエンザや肺炎球菌のワクチンによる予防を心がける、ということが大事です。急性増悪を予防できれば重症化を防ぐことができる、ということですね。
■タバコの害
COPDの最も大きな原因はタバコです。タバコの消費量が増えてくるのに伴ってCOPDの死亡率も増えてくる、タバコの消費量が減ってくるとCOPDの死亡率も減ってくるのです。今、日本国内のタバコの消費量は若干減少していますが、COPDの死亡率が減ってくるまでは、もうしばらく時間がかかるということになります。
イギリスの研究データによると、タバコを吸わない人はタバコを吸う人と比べて10年間長生きする、という結果が出ています。
タバコの害として、受動喫煙が問題視されています。COPDとは異なりますが、ご主人がタバコを吸っている場合、タバコを吸わない奥さんがどの程度ガンになりやすいか、を調べた結果があります。ご主人がタバコを吸わない奥さんの肺ガン死亡率を1とした場合、ご主人が毎日20本以上喫煙する奥さんの肺ガン発生リスクは約2倍と言われています。
タバコを吸う方の中には「自分はタバコを吸って税金を払っているのだから、とやかく言われたくない。」とおっしゃる方がいます。去年の秋、タバコは大幅に値上げされて、その分税収が増えたと思われているようですが、タバコを吸うことによって、その分医療費がかかっています。実は、日本全体でみると、タバコを吸うことによって2兆8千5百億円損をしている、ということになります。
タバコの税収は1兆9千億円ですが、タバコを吸うことによってかかる医療費が3兆2千億円です。このほか、火災による所得の損失などを含めたトータルでは、約3兆円弱のお金をタバコを吸うことによって損失している、と言われています。
そうは言っても、なかなかタバコはやめにくいようです。心理的依存と科学的依存といいますか、心理的に吸いたいというのと、ニコチン中毒ですね。だから体内のニコチンが減ってくるとイライライライラして吸ってしまう、ということになります。ただ、最近はニコチン補充療法や、それ以外の禁煙補助剤をうまく利用して禁煙に努力することができます。
■COPDの治療と予防
COPDは先に言いましたように、悪循環になります。COPDになると運動時に息切れがします。そうなると運動を避けるようになります。運動を避けると運動機能が低下します。そうなると余計に運動しなくなるし、ますます避けてしまいます。グルグルと悪循環になり、最後には寝たきり状態のようになってしまうのです。この悪循環をどこかで断ち切らないといけません。
そのために、日本呼吸器学会が出している治療管理に則って、私たち医師は治療を行っています。つまり、きちんと決まった治療方法がありますよ、ということになります。
患者様の苦しさを取る、進行を防ぐ、運動もできるようになる、健康状態の改善、合併症・増悪の予防、死亡率を減らす、ということを目標に治療しています。
治療1:禁煙
治療の第一は禁煙です。なにがなくても禁煙が大事ですね。
治療2:薬物治療
基本的には気管支を広げて空気の通りを良くする、という治療方法が主体となります。気管支拡張剤にはβ2刺激剤、抗コリン剤、テオフィリンなどがあります。
それ以外にもステロイド、去痰剤、利尿剤を使ったり、そういうのを組み合わせたりします。
気管支を拡張する薬には、長時間効くタイプと短時間効くタイプがあります。長時間タイプはセレベント、ホクナリンテープがあります。抗コリン剤のスピリーバは1日1回2吸入すると24時間気管支を広げる薬です。
それとは別に、短時間型の吸入薬があります。これはどういう時に使うのかというと、一時的に運動する場合です。たとえば、お風呂に入る前にちょっと息苦しい、といった場合にはお風呂に入る前に使います。
短時間タイプはお風呂に入る前、階段を上る時にきついとか、ケースバイケースで使うことによって旅行ができるようになったり、趣味を楽しんだりと、活動の幅が広がります。そうなると前述の運動をしなくなることによって、さらに筋肉が落ちる悪循環を断ち切ることになります。
治療3:呼吸リハビリテーション
口すぼめ呼吸・腹式呼吸:当院はもちろん、呼吸器科を擁する病院ではリハビリを行っています。COPDを患ったのでリハビリをしてみたい、という方はこれらの呼吸法を習うことも一つの手段だと思います。
運動療法:運動をすることによって筋肉を付けると、呼吸もしやすくなります。
食事:栄養補給できないと免疫力が衰えます。
在宅酸素:残念ながらそれでも息苦しくなった、という場合には在宅酸素を使用します。見た目が気になるため、酸素を使うことをためらわれる方がいらっしゃいます。しかし、酸素を使わずに無理をしていると、心臓は酸素が少ない状態で一生懸命動くことになります。最後は心臓がバテてしまいます。充分に酸素がある状態で心臓に働いてもらえれば、運動する力、筋肉も強くなるので、リハビリなどもしやすくなります。
在宅酸素は、最後の手段というよりも、ステップアップするためのツールとして使用すれば、活動性を高めることができます。以前はできなかった旅行も、今では酸素を使いながら旅行することができます。飛行機も乗る前に手続きをすれば搭乗できますし、旅行先のホテル、旅館にも酸素を持って行けます。
急性増悪予防:うがい、手洗い、インフルエンザを含めたワクチンの接種が大切です。
■おさらい
「咳・痰が出る」「息切れがする」「口すぼめ呼吸をしている」「以前、タバコを吸っていた」「現在、タバコを吸っている」。この中に当てはまる項目があるなら「COPDかもしれない」と、まず疑ってみることが大事です。
「歳のせい」と思って諦めるのではなく、もしCOPDだったとしても治療ができます。COPDがひどくなると実年齢より肺年齢が増えてきます。喫煙者や軽症・中等症COPD患者の人にCOPDをもっと知ってもらう、ということで学会を含め活動しているところです。
肺年齢をチェックすることにより、メタボリック症候群と同じように「普段から肺の健康に気をつけましょう」ということで、私の講演を終わらせていただきます。
